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柔道整復師問題、「ここ数年が戦いの最終局面」 2010年11月9日m3.comより

日本臨床整形外科学会シンポ、「日医声明は脅迫電話で頓挫」

 日本臨床整形外科学会が11月7日、都内で開催したシンポジウム、「国民の健康と医療制度を考える – 事業仕分けと療養費 – 」で挨拶した日本臨床整形外科学会理事長の藤野圭司氏は、「ここ1、2年、風向きが変わってきており、柔道整復師の療養費に大きな問題があるという認識が広がってきた。マスコミ報道などもかなり増えており、問題点が正確に指摘されるようになった。柔道整復師側もどのように解決していくかという形に変わってきている。ここ数年がこれまでの戦いの最終局面になってくるのではないか」との見通しを示した。

 「整形外科を取り巻く社会保障の政策環境」と題して講演した、慶應義塾大学商学部教授の権丈善一氏は、「柔道整復師の施術療養費の伸びを見ると、この不況下で、これほど成長している産業はない」と指摘。その上で、(1)1998年の福岡地裁判決で、柔道整復師の養成施設を指定しなかった厚生労働省が敗訴、(2)療養費が適切に請求されているかをモニタリングするコストが、今の制度では高くつく――という二つの疑問があるとし、「なぜ医療保険の所轄官庁である厚労省が、養成施設の数量規制を実施できないのか。また骨折・脱臼では緊急以外は医師の同意が必要だが、いったい誰がこれをモニタリングするのか。利用者に制度を理解させたり、保険者が監視するにもコストがかかる。したがって、療養費の制度そのものが悪い。スタート時点で問題のある制度を作ったために、社会制度全体に悪影響を及ぼしている」と問題提起した。 

 権丈氏のほか、日本医師会会長の原中勝征氏の講演に続き、下記の6人によるシンポジウムという形で展開されたが、日本医師会常任理事の葉梨之紀氏は、「今年4月に新執行部発足後、すぐに柔道整復師問題を検討した。日医としては声明を出すべきだとし、素案を作成、理事会に諮るところまで進んだが、原中勝征会長に脅迫電話が入り、今はそのままになっている」と明かし、この問題の難しさを示唆した。素案では、不適切な療養費の請求の一因とされる「受領委任払い制度」の見直しなどに言及していたという。

的な言葉を受けたとしつつ、「役人の行動原理は、事を荒立てたり、自らに責任が来ることを嫌うこと。監督官庁と取り締まる役所が一緒であることにも問題であり、取り締まることは前任者の不正を暴くことになる。“大マスコミ”にも問題があり、役人が怒ることはなかなか書かない」などと指摘。その上で、「冷静に考えたら、おかしいことばかり。お笑いから始めなと、国民もあまりに洗脳されて、振り向いてくれない。『お笑い柔道整復師』という新書を出したらどうか。家族3人で同時に接骨院に行くとか、何箇所も同時に骨折するとか、事実を書くだけで、爆笑モノ。それくらいの発想で国民にアピールすべき」などと話し、問題意識を持つ医療者が行動する重要性を強調した。 

療養費は「事業仕分け」でも対象に

 柔道整復師問題の論点は主に二つ。一つは、柔道整復師の施術療養費の問題。保険医療費を使う以上、適正な請求が求められるが、「受領委任払い制度」が採用されているなどの理由から、柔道整復師側から保険者への請求が必ずしも適切になされていないケースがある。柔道整復師の施術が保険適用されるのは、「骨折、脱臼、打撲、捻挫。骨折・脱臼については、緊急の場合を除き、医師の同意書が必要」とされているが、それ以外の慢性疾患でも療養費を請求するケースが見られる。もう一つは、健康被害の問題だ。医師の同意を得ずに施術し、疾患が見逃され、悪化したなどの報告もある。

 会計検査院の2009年度決算検査報告によると、2008年4月から9月までの6カ月間に柔道整復の施術を受けた被保険者等から抽出した2万8293人の調査では、1カ月に10回以上施術を受けた人は28.7%に上るなど、全体の74.2%の請求に疑問が呈せられ、その療養費は7億7501万円、うち国の負担額は3億925万円に上ると指摘されている(会計検査院のホームページのうち「柔道整復師の施術に係る療養費の支給について」を参照)。

 2009年秋の民主党政権の事業仕分けでも、柔道整復師の療養費の問題が取り上げられ(『医療主要6分野、「予算削減」「要求見送り」「見直し」へ』を参照)、厚生労働省は、2010年6月から、(1)多部位請求の引き下げ、(2)3部位以上の請求は部位ごとに負傷の原因を記載、(3)領収書の無料発行の義務付け、(4)希望者への明細書発行(実費徴収可)の義務付け、などの見直しを実施している。

 日本郵船健保、「原則柔整療養費を払わず」で、厚労省が通知

 「療養費をめぐる最近の動向」を解説した日本臨床整形外科学会の藤田氏は、ここ数年、柔道整復師の療養費の増加率は、国民医療費の伸び率を上回っている現状などを説明。その上で、日本郵船健康保険組合が、「真にやむを得ない事情があり、保険医療機関にかかることが困難な事情がある場合(負傷時に近隣に医療機関がない場合など)を除き、原則、柔道整復師の療養費を支払わない対応に2008年ごろより変更した」(藤田氏)ことを紹介、それに対する厚労省の対応を問題視した。

 厚労省は、2009年5月19日付けの保険局医療課長通知で、「柔道整復施術療養費の支給決定の取り扱いに関し、他と異なる扱いを行うのは、国民が平等に給付を受けることができる健康保険制度の目的等から適切ではないことから、これらのことを踏まえ適切に対応するようお願いする」としている。

 さらに、日本臨床整形外科学会や日本整形外科学会などはこれまで再三、厚労省などに働きかけてきたが、最近では、健保連大阪連合会が2009年10月14日に、厚労省近畿厚生局に柔道整復師の施術に関して指導・監査の強化等を要請したり、国民健康保険中央会が2010年3月1日に、「柔整請求書様式の統一化を 適正な請求支払いへ5項目を提言」をまとめるなど、保険者レベルでの動きも出ているとした。

 藤田氏は、(1)事実上、慰安目的の医業類似行為は保険適用外とする、(2)保険者に療養費支給の裁量権を認めた、健康保険法87条に照らすと、日本郵船健保組合宛の通知は国家公務員法違反の疑いがある、(3)厚労省は「療養費の適正化」に取り組むべき、(4)柔道整復・はり・きゅう・マッサージの療養費を医科医療費に按分算入してきたことは問題であり、医療費統計手法を見直すべき、と指摘した。

 「受領委任払制度」の見直しが必要

 前述の日本郵船の通知について、弁護士の伊藤氏は、健保組合は、公益法人であり、他の健保組合に所属する組合員との間で不平等が生じるのは望ましくない、とする行政の立場も致し方ないとの見方を示した。「受領委任制度は、本来、法が想定していない形態なので、法の不備が生じている。受領委任制度を見直すには、単一の健保組合だけで動くのではなく、国民の意識を喚起し、厚労省を動かすのが本道」(伊藤氏)。

 また、88の健康保険組合で組織する「保険者機能を推進する会」の柔道整復部会の掘瀬氏は、「母と子2人の3人が、毎回ほとんど同じ日にケガをして通院していた…」など、療養費の不適切な請求事例などを紹介、保険者の立場としては、厚労省が進める療養費の算定基準の見直しが正しく運用されているかを検証していくとした。

 もっとも、こうした運用改善は必要だが、この点が権丈氏が、「モニタリングコストが高すぎる」と指摘する理由でもある。前述のように、柔道整復師の施術療養費は、「受領委任払い制度」。患者の窓口での負担は少なくて済む一方、マッサージ代わりの安易な施術の利用につながりやすい。また受領委任に当たっては、申請書への患者のサインが必要だが、柔道整復師側がサインをもらわずに保険者に請求している場合もあるなど、「受領委任払い制度」が不適切な請求を生じる土壌になっている。運用でカバーするのにコストがかかる以上、受領委任などの制度自体を見直すべきというのが、この日参加したシンポジストの一致した意見だった。

 m3.com  http://www.m3.com/ より転載しました

 

掲載日/最終更新日 : 2010年11月22日(月)

 

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